最近、株主優待で「継続保有」が重視されつつあります。
つまり、長年にわたり株を保有し続けてくれる人を優遇するということです。
しかし実際には、「継続保有」ではなく「一旦全株売って、決算前に買い戻し」という方法でも、継続保有扱いになることがあります。
各社は、継続保有をどのように判定しているのか? 気になって調べてみました。
カギになるのは「株主番号」ですが、株主番号がどのように付与されるかは企業によって異なるということが分かってきました。
「継続保有」の判定方法
当社の株式を○年以上継続保有されている方に追加で××を進呈――最近よく目にする株主優待です。
企業によっては「○年以上継続保有されている方にのみ××を進呈」というところもあります。
この「○年以上継続保有」というのは、どういうふうに判定されるのでしょうか?
「株主名簿」と「株主番号」がカギ
一例として明光ネットワークジャパン(4668)を挙げてみます。
まずは同社のホームページをお読みください。
明光ネットワークジャパンでは、株主優待(クオカード)の金額を「継続保有3年未満」と「同3年以上」で区分しています(2021年3月現在)。
そして、「継続保有3年以上」を以下のように定義しています。
保有年数とは、株主様として当社「株主名簿に記載された日から継続して上記株式を保有している期間をいいます。
3年以上の継続保有とは、毎年2月末日及び8月末日の株主名簿に連続7回以上同一番号にて記載または記録されている状態を指します。
ここでポイントになるのが「株主名簿」と「株主番号」です。
「株主名簿」とは文字どおり株主全員の名前が載っている名簿なのですが、各株主には固有の「株主番号」が振られています。
株主番号は、1株でも株を保有している間は不変といわれています。
逆に、一旦株を全部手放してしまうと、次に購入したときには違う番号が振られる可能性があります(後述します)。
以上をふまえると、明光ネットワークジャパンの文章の意味が分かるかと思います。
半年に1回名簿をチェックして、連続7回、同一株主番号で名簿に載っている人は、この間ずっと株を持っていたと考えられるので「継続保有3年以上」とみなします、ということです。
なぜか当てにされない、株主名簿の「取得日付」
さて、会社法121条には、株主名簿に「株式を取得した日」を記載することになっています。
であれば、この情報を利用して継続保有を判定するほうが素直なやり方のように思えます。
しかし実際には、株主名簿の取得日を見て継続保有を判定しているという会社は稀です(私は見たことがありません)。
これはなぜでしょうか。
推測ですが、これは「ほふり」のせいではないでしょうか。
「ほふり」の仕組み
上場企業の場合、(紙の)株券というものは存在せず、市場に出ている全ての株は「証券保管振替機構」(いわゆる「ほふり」)が所有している、という扱いになっています。
つまり、市場に出ている株については、株主は「ほふり」一人ということになります。
一般人は証券会社を通じて株を買ったり売ったりできますが、このとき株主の名義は「ほふり」のままです。
一方で、「ほふり」は各投資家ごとの持ち分を管理しており、「ほふり」の帳簿上に「この人は何株持っている」という情報が記録されています(やや不正確な表現ですがご容赦を)。
「実質株主」とは?
ただ、これでは投資家が株を売り買いしても配当や株主優待をもらえず、株主総会での議決権も得られないので、株を買う意味がなくなってしまいます。
そこで登場するのが「実質株主」という概念です。
繰り返しになりますが、我々一般人が証券会社を通じて上場されている公開株を買っても、株主にはなれません。
株主は「ほふり」であり、「ほふり」の帳簿上で「○○さんはA社の株を100株買った」ということになっているだけです。
では○○さんは何なんだ?というと、「A社の実質株主」ということになります。
つまり、名義上、株主は「ほふり」だけれども、配当や株主優待、株主総会での議決権などは○○さんに属します、実質的には○○さんが株主ですよ、ということです。
株主名簿 vs 実質株主名簿
これをふまえて、株主優待の「継続保有」について考えてみます。
先に「株主名簿の株主番号で保有期間を判定する会社が多い」と書きましたが、正確に言えば「株主名簿」ではなく「実質株主名簿」を見て判定しているということになります。
会社法121条で、株式会社に作成が義務付けられているのは「株主名簿」であり、「実質株主名簿」ではありません。
また、同条で「取得日付を記録すべし」とされているのも「株主名簿」であって、「実質株主名簿」ではありません。
実質株主名簿に何が記載されているのか、そこまで調べてきれていないのですが、「取得日付」については記載されていないか、もしくは継続保有を判定する材料には使えないデータになっているのではないかと推測します。
株主名簿の更新タイミングは?
若干話がそれましたが、「継続保有」の大まかな判定方法は分かりました。
しかし細かいところまで気にすると、分からない点がいくつかあります。
まず、株主名簿はいつ更新されるのか?という疑問があります。
ここでいう株主名簿とは、正確には「実質株主名簿」ということになります。
明光ネットワークジャパンの場合、同社のIRサイトに「年に2回、株主名簿をチェックする」とあります。
ですから最低年2回は名簿が更新されているのでしょう。
しかし、株主名簿を年2回しか更新しないのか、実は毎月、毎日、毎時、毎分、毎秒更新しているのか?
それはこの文を読む限りでは分かりません。
実質株主名簿はどのように作られる?
前述のとおり、上場企業が株主を把握するには「実質株主名簿」が必要となってきます。
実質株主名簿を作るという実務は、そのものズバリ「株主名簿管理人」が行っています。
さらに言うと、株の売買は証券会社を通じて行われており、各個人の所有する株は各証券会社の口座にあります(やや不正確な表現ですがご容赦を)。
「名簿を作るぞ」となったときには、株主名簿管理人から保管振替機構を経由して、各証券会社に対し「○○株式会社の株主を全部報告せよ!」という号令が出ます。
つまり、「誰が何株持っている」という情報は、「各証券会社→保管振替機構→株主名簿管理人→株の発行会社」という経路で流れます。
この流れで、株の発行会社が全株主の情報を集めることを「総株主通知」と呼びます。
総株主通知は、通常「基準日」をターゲットにして行われます。
配当や株主総会での議決権をいつ時点の株主に与えるか、というのが「基準日」で、その日現在の株主を調べるわけです。これは通常、年2回ないし年4回実施されます。「権利確定前に株を買う」という行為は、この総株主通知に間に合うように株を買う、と言い換えられます。
「年2回チェック」=「年2回作成」か?
以上のことから、明光ネットワークジャパンの場合には「実質株主名簿の作成は年2回」と推測することができます。
前述の流れを見ればお分かりだと思いますが、会社の手元には常に最新の実質株主名簿があるわけではありません。
「実質株主名簿を作ってください」と言わないと名簿は作成されず、通常それは年2回ないし4回です。
たとえば会社が「月1回、実質株主名簿を作ってください」と株主名簿管理人にお願いすれば、毎月株主名簿が作られます。
しかし前述のとおり、基準日以外に総株主通知を行うと別途費用が発生します。
わざわざ費用をかけて毎月名簿を作らせておいて、その中身をチェックするのが年2回だけというのは、いかにも不自然ではないでしょうか?
裏を返すと、「年に2回しか名簿をチェックしないのなら、名簿の作成も年2回」と考えられる、というわけです。
株主番号が変わる条件は?
そして、結局知りたいのはこれですよね。
「株主番号が変わる条件」というのは何なのでしょうか。
推測:多分、ずっと見張ってはいない
私たちの推測ですが、実質株主名簿の更新のタイミングでのみ、株主番号も見直されると思われます。具体的には以下のような手順です。
- 実質株主名簿の更新のために、「今日時点での株主」をリストアップする
- 「今日時点での株主」全員に対し、その人が前回の実質株主名簿に載っているかどうかを確認する
- 載っていれば、前回の株主番号を継続。載っていなければ新たに株主番号を割り当てる
つまり、株の売買を24時間ずっと見張っているわけではなく、年に数回の名簿更新時にだけチェックするのではないか、ということです。
この推測が正しいとすると、名簿作成のときだけ株を保有するという方法でも、株主番号を変えずに済みます。
「全株売ったら番号が変わる」は本当か?
私たちの推測は以上のとおりですが、他のサイトを読むと、大体「全株を売却したら株主番号が変わる」という説明になっているかと思います。
これを文字どおりに受け取ると、3月1日の9時に全株売却し、同日の9時01分に100株買い戻したとしても、番号が変わるということですよね。
ということで、どちらかの言い分が間違っていることになります。
どちらが間違いかといえば――まあ、普通の考えでいけば、弱小ブロガーである私たち…ですよね!
ところが、全株売ったのに株主番号が変わらなかった事例を、私たちは体験しています。
具体的にはイオン(8267)の株で、一旦全部売却して、次の決算前(約半年後)に買い戻したのに、株主番号は変わりませんでした。
カギを握るのは名簿の作成頻度か
じゃあ結局、何が正しいの?ということになりますが、世間一般の説明に対する私たちの解釈はこうです。
「全株を売却したら、株主番号が変わる『ことがある』ので、全株売却するときは覚悟しろよ!」
これで、私たちの推測と世間一般の説明が矛盾せずに両立します。
カギになるのは実質株主名簿の作成頻度だと思います。これが年2回なのか年4回なのか、それ以上なのか?
大学の講義でいえば、1回の講義で1回だけ出席を確認するのか、授業の途中でも出席を確認されるのか。
それによって、「途中抜けているのがバレるかバレないか」が変わってくるわけです。
講義によって出席の確認方法が違うように、会社によって、名簿の作成頻度も違うというのが現状です。
予想:今後、チェックは厳しくなる方向
これも私たちの予想ですが、今後、どちらかといえば「全株売ったかどうかチェック」は厳しくなる方向でしょう。
というのは、空前の株主優待ブームによって、私たちのように「権利確定の直前に買って、直後に売る」という株主が急増したと思われるからです。
自社株を継続的に保有してくれる安定株主は、会社にとってはありがたい存在です。
だからこそ、継続保有を条件に株主優待を増やしたり、継続保有しないと株主優待を出さなかったりしているわけです。
逆に言えば、私たちのように短期間しか株を保有しない株主は、あまり歓迎すべき存在とはいえません。
それが「継続保有が条件と言っているけど、実際には全株売却しても、次の決算までに買い戻せば大丈夫」ということになれば、大してありがたくもない株主に対し、不要に株主優待を与えてしまうことになります。
前述のイオンのように、現在はおそらく年2回しか株主番号を更新していないであろう企業も、たとえば年4回名簿を更新するようにして、3ヶ月以上空白のある株主には新規に株主番号を振る、という方針に変更する可能性があります。
先に「実質株主名簿を半年に1回しかチェックしないのなら、名簿を毎月更新する意味はない」と書きましたが、このような「インチキ継続保有」を見破るという目的ならば、頻繁に名簿を更新する意味はあるといえます。
名簿を頻繁に更新していれば、「一旦全株売却して、また買い戻した」人の株主番号は新たに振り直される可能性が高くなるからです。
結論:どうなるかは会社による
以上、長くなりましたが株主番号について考察してみました。
正直、ここまでややこしいとは思っていませんでした。
また、事実を正確に記載しているサイトが少ないことも驚きでした。
本記事の内容をざっくりまとめると、株主番号が変わる条件は会社によります。
毎回の権利確定前だけ保有していれば同一番号を維持できる会社がある一方、頻繁に名簿を更新している会社ではそれが通用しない(全株売却すれば株主番号が変わってしまう)こともあります。
ただ、実質株主名簿の更新は年2回ないし年4回、権利確定前あるいは決算前が標準であり、決算日と決算日の間に「空白」があっても株主番号が変わらない可能性が高いと考えられます。
ある特定の銘柄について、株主番号がいつ振り直されるのかといった情報は、ネット上で探せば見つかるかもしれません。
ただ、そのやり方が未来永劫続くという保証はないので、もし継続保有を考えるなら、やはり「全株売却しない」という方法をとるのが無難です。
全株売却さえしなければよいので、1株だけ売らずに残しておくという奥の手もあります。
長くなりましたので、こちらはいずれ別記事にまとめます。
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