結局おトクになるの? タクシー運賃の事前確定を徹底分析

2017年8月7日から2ヶ月間、東京23区のタクシーでちょっと変わった実験が始まります。タクシーを呼んだ時点で運賃が確定するというものです。

タクシー運賃は渋滞につかまるとどんどん上がっていき、「一体いくらになるのだろう」とイライラしますよね。事前に運賃が決まるなら、こういうことがないので安心で、かつ、何となくおトクになりそうな気もします。

が! 結論から言いますと、利用者にとってはトータルで損得なしです。この点、既存の定額料金サービスと分けて考える必要があります。

ただ、利用者に経験や知識があれば、この実験をうまく利用して、通常運賃よりもおトクにタクシーに乗ることも可能です。

実験の目的と内容は?

この実験を主導しているのは国土交通省です。興味のある方はプレスリリースをご覧ください。

渋滞やメーターを気にせずタクシーを利用できます
~タクシーの事前確定運賃に関する実証実験について~
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000268.html

実験の内容は、特定のアプリでタクシーを呼んだ場合、呼んだ時点で運賃が確定するというもの。いくら渋滞しても遠回りしても運賃は変わりません。対象地域は東京23区+武蔵野市+三鷹市、運賃3000円以上の場合が対象です。

このプレスリリースによると、実験の直接的な目的は、乗っている間じゅうメーターが気になるという不安を解消することだそうです。
その結果、アプリでタクシーを呼ぶ人が増え、「タクシーの空車走行を減らし、生産性を向上させること」を目指すとのことで、こちらが最終目標といえそうです。

運賃が不安でタクシーに乗れない?

こういう実験をやるということは、「タクシーだと運賃がいくらになるか分からない、不安だから乗らない」という人が一定数いるということなのだと思います。
私たちも、今でこそタクシーに乗り慣れ、大体いくらかかるか想定できるようになってきましたが、気持ちは分からないでもありません。

タクシー運賃の目安を知るだけなら、アプリやウェブサイトがいくらでも見つかります。しかし渋滞すれば見込みより高くなりますし、「遠回りだけど早い道」を通ったので高くついた、ということもあるでしょう。

これが、電車やバスと同じように「乗る前に運賃が分かる」ということになれば、「高いからやめよう」とか「この値段なら乗ろう」とか、判断が下せるようになりますよね。今回の実験ではまさにこれを実現しています。

今回のプレスリリースには、英語版のパンフレットもついています。外国人旅行者も日本のタクシー運賃について不安を持っており、それを解消することも狙っている、ということかと思います。

なお、事前に運賃が決まる定額制のサービスとしては、以下のようなものもあります。こちらは割安にもなることが多いので、ご参考まで。

ツマーが持病ありなので、タクシーには何かと縁のある我が家。おそらく年間100乗車ぐらいはしていると思います。20km程度のタクシー乗車には慣...

空車率を下げることが目標

もう1点。プレスリリースにもありますが、タクシーが空車のまま走行しているのは無駄なので、これをなるべく減らしたい、という問題意識が行政(そしておそらくタクシー業界)にあります。

今のタクシーの営業方法として、大きく分けると「お客から呼ばれたら迎えにいく」「駅などでお客を待つ」「道路を走りながらお客を探す」と3パターンあると思いますが、「呼ばれたら行く」以外の方法は、「そこにお客がいるだろう」という見込みで車を走らせています。読みが当たればいいのですが、外れると時間と燃料の無駄になります。

しかしそこは「IT革命」がもはや死語になる時代。「タクシーに乗りたい人」と「空車のタクシー」を最短距離で引き合わせて無駄をなくし、環境にもドライバーにも優しいタクシーを実現できる状況にきています。

そのためには、乗客側に「乗車する意志を発信する道具」としてのアプリが必要で(電話でもいいような気はしますが…)、アプリ普及のインセンティブとして「事前確定運賃」を設けた。やや回りくどい気はしますが、そんなところかと思います。

参加事業者は4社あるが…

今回の実験に参加するタクシー事業者は大きく分けて4グループあります。「東京四社」と呼ばれる大手グループからは帝都を除き3グループが参加。これに加え、もともと福岡が地盤の第一交通グループも参加しています。

こう聞くと業界挙げての取り組みという感じですが、詳細な参加事業者一覧を見ると、実態は9割が日本交通です。
日本交通については、グループ全社、全営業所かどうかまでは分かりませんが、4000台以上が実験の対象となります。
一方、国際自動車、大和自動車、第一交通については、グループ内の1社ないし1営業所だけが参加するという、まさに実験的な状況にとどまっています。それぞれ大田区、江戸川区、江東区の営業所が参加するようで、山手線の北西方面では、事実上の日本交通一択になりそうです。

アプリ普及の起爆剤となるか

これは「やる気の差」というよりは「インフラの差」によるのだろうと思います。

日本交通は「アプリでタクシーを呼ぶ」というサービスの草分け的存在であり、タクシー業界で最も利用されている「全国タクシー」アプリを擁します。
今回の実験も「全国タクシー」アプリの一機能として実現しています。

一方、残りの3社は今回の実験のために専用のアプリを用意して対応します。
私たちも、最初「あれ? 国際自動車ってアプリでタクシーを呼べなかったような?」と不思議に思い、調べてみたら専用アプリを新たに作ったということのようです。

これを機に、各社ともタクシーアプリを充実させてほしい――そんな意図も国土交通省にはあるのでしょうか。

渋滞すれば、事前確定運賃も高くなる!?

目的はともかく、最大の関心事は、この制度を利用すると得になるのかどうか?ということだと思います。

冒頭にも書きましたが、実証実験の趣旨からいくと、利用者にとってはトータルで損にも得にもなりません。そのような方法で運賃を決めます、ということです。

ただ、個々の乗車を見れば「事前確定のおかげで安くついた」という場合、逆に「かえって高くついた」という場合、どちらもあり得ます。

「渋滞込み」の価格です

プレスリリースを読むと分かりますが、今回の実験には「実証実験期間中の事前確定運賃の総額とメーター運賃の総額との乖離が2%以内であること」という要件があります。
個々の乗車を見れば「事前確定のほうが高い」ことも「事前確定のほうが安い」こともありますが、全ての実験参加者の平均をとったとき、通常運賃との差が2%以内に収まるように事前確定運賃を決めなさい、ということです。

これもプレスリリースにありますが、事前確定運賃は「配車アプリの地図上の走行距離、予測所要時間、迎車料金などを踏まえて算出されます」だそうなので、渋滞しているときにタクシーを呼べば事前確定運賃は高くなるものと思います。

それじゃ意味ないじゃん!という声も聞こえてきそうですが、今回の実験は、あくまで「乗る前に運賃が決まる」というところが肝なわけです。
渋滞で運賃が高くなることが「乗る前に」分かるからいいでしょ!高いと思うなら乗らないという選択もできるよ!ということです。

ということで、平均的には、利用者にとって損得はない(通常のメーター運賃と変わらない)ということになります。

「上限1.3倍」ルールは活用できる?

最後にもう1点、実験の要件として「個々の運送において、事前確定運賃が距離運賃よりも1.3倍以上高くならないこと」というのもあります。「距離運賃」というのは「渋滞や信号待ちが全くなかった場合の運賃」のことだと思われます。

私たちの経験上、距離運賃の1.3倍といえば相当な渋滞で、空いているときの1.5倍ぐらい時間がかかるような状況です。実際に遭遇することはあまりないと思います。

ただ、かりにこのような渋滞があったとしても、事前確定運賃は1.3倍が上限となっているので、大渋滞することが分かっているときには、事前確定運賃はおトクといえます。

アプリと人間の知恵比べで価格交渉!?

結局、今回の実験は利用者にとって「損得なし」を目指している、ということが分かりました。

こうなると急に興味が失せるのですが、細かく見ればそうでもありません。人間が十分賢ければ、実証実験アプリの「言い値」が割安か割高かを判断できるからです。
割安だと思えば事前確定運賃を利用し、割高だと思えば普通にタクシーを呼べばいいのです。

逆に、「言い値」の妥当性を判断できない場合、通常のメーター運賃のほうがだいぶ安かった!ということも考えられなくはありません。

損か?得か? 人智でアプリを上回れ!

利用者は、実証実験アプリに対し「スタート」と「ゴール」を示すだけです(予約の場合には出発時刻も与えます)。アプリはこの条件から、適切な経路とその所要時間を算出し、それに基づいて事前確定運賃を決めます。

ということは、利用者が独自に「予測運賃」を算出し、それと比べて実証実験アプリの提示した運賃が安いか高いかを判断できれば、事前確定運賃によってトクをすることができるわけです。

これはもう玄人の世界ですが、不可能ではありません。実証実験アプリが利用するであろう「道具」は、私たち一個人にもほとんど利用可能だからです。
アプリに必須の機能は「経路探索」と「道路状況の把握」ですが、どちらも「Googleマップ」「Yahoo!カーナビ」といったアプリで誰でも調べることができます。
予約の場合、現在の道路状況を調べても意味がないのですが、Googleマップのウェブサイトでは「何曜日の何時ごろ」と指定して、過去の平均的な道路状況を調べることができます。

「アプリの選んだ経路」が肝?

本記事の初版執筆時点で実証実験は始まっていないのですが、実証実験アプリが提示してくる事前確定運賃が、どの経路をもとに算出されたものなのか、ということが損得を大きく左右するように思います。

現在の「自動経路探索」は、地元の道路事情に詳しい人には及ばないというのが私たちの実感です。それゆえ、事前確定運賃が不要に高く算出される例があるのではないかと危惧します。

システムの細かなつくりも結果に大きく影響する可能性があります。
たとえば「時間帯限定で右折可能な交差点」が「右折不可」と認識されていて遠回りになる、といったことは考えられます。
また、到着地が主要道にある場合、下り車線か上り車線かというところまで意識して場所を指定しないと、下り車線で降りたいのに、わざわざ迂回して上り車線に到着するルートが選択されるかもしれません。

かりに、ベースとなる経路がおかしなものだとすると、これに道路の混雑度合を加味して算出される事前確定運賃も、実際のメーター運賃からかけ離れたものになります。
アプリの選択した経路がユーザに見えれば、まだ異変に気付きやすいと思います。そうでないとすると、金額だけを見て「この運賃はおかしいぞ?」と気付く「感度」が求められます。

(2017/08/03追記)
国際自動車の実証実験アプリのスクリーンショットを見ると、どうも運賃計算のベースとなる経路はユーザにも標示されるようです。以下、システムを制作した日本ユニシスのプレスリリースをご覧ください。

国際自動車、日本ユニシス
共同開発アプリでタクシー事前確定運賃サービスの実証実験をスタート
https://www.unisys.co.jp/news/nr_170803_taxiap.html

こうした気遣いをしなくてよいよう、国土交通省は前述のとおり「メーター運賃からの乖離が±2%以内」という要件を設け、アプリ制作側に精度の高い運賃算出を求めているわけです。
しかしそうはいっても、発着地によっては、不運にして「何だこれは?」という運賃が出てくることもあるのではないか、と私たちは予想しています。

「複数社見積」も可能

最後に一つ、主に23区の海側でタクシーを利用する方なら、複数社から見積もりを取って最安の会社を選ぶ、ということもできそうです。

実証実験アプリは各社が別々に用意しています。それぞれが全く独立に開発されているかどうかは疑問で、蓋を開けてみればスキンを変えただけだったという可能性もありますが、運賃を算出する肝の部分(各社の利益に直結します)の作り込みは各社で異なることが考えられます。

もしそうだとすると、同じ「A地点からB地点まで、○時×分発」という条件に対し、会社によって違う運賃を提示してくることが考えられます。もちろん最安の会社を選びますよね。

ただ、前述のとおり、日本交通以外の3社は限られた営業所のタクシーだけが実証実験に参加しているので、利用する地域によっては「呼んでも来ない」という結果に終わる可能性が大です。

まとめ:面白そうではありますが…

以上、大袈裟に言えばタクシーの常識を変えるかもしれない実証実験について、考察してみました。
おそらく何度か利用することがあると思いますので、またレポートしたいと思います。

「事前に運賃が決まらないら不安」という人がいることは事実でしょうし、そういう人にとって、このようなサービスは福音だと思います。

一方、これにより「アプリの普及」→「空車率の減少」という狙いが達成できるかというと、どうなんでしょう、というのが個人的な感想です。
初乗り410円の時代に迎車料金が410円ですから、都心部にいれば、まずアプリを使わずにタクシーをつかまえようと考えますよね。本当に「迎車中心」を目指すのであれば、迎車料金の値下げが筋なのではないかと思います。
その点、国際自動車の「フルクル」には期待しています。以下、紹介記事です。

アプリの使い勝手がいいので、タクシーはすっかり日本交通派の私たちですが、ここにきて大手4社の一角、国際自動車(kmタクシー)が新たなアプリ「...

ともあれ、この実験で何が得られるのか、興味を持って見守っていきます。

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コメント

  1. 通りすがり より:

    日本交通のアプリでは、以前から概算運賃が検索できましたが、いくつか調べてみたら事前確定運賃より従来の概算運賃の方がメーターで乗車した時の運賃に近いケースが多かったです。
    渋滞にどっぷりはまるとか、運転手が道を
    かなり間違えるとかなどのイレギュラーがなければ安くないなと思いました。

    • ツマー より:

      コメントありがとうございます。
      別記事を準備中ですが、事前確定運賃、かなり強気の設定です。
      場合によってはバグと呼んでいいレベルの高額です。
      ご指摘のとおり、以前からある概算運賃機能のほうが、実態に近いです。