寝たまま移動! 福祉タクシーは一般人にも使えるか

タクシー

体調が悪くてタクシーでも病院に行けない――健康な人には想像もつかないかもしれませんが、病気持ちにとって、そういうことは珍しくありません。
病院に行くのがとにかく辛い、しかし病院に行かなければ体調は回復しない。この袋小路からどうやって抜け出せばいいのかとウンザリです。

もちろん、セーフティネットとして救急車という手段はあります。
私たちの場合、実際に自宅に救急車を呼んだことも一度ではありません。
しかし「緊急性はないが身体が辛い」という場合に、公共の貴重な資源である救急車を利用するのはためらわれます。

何とか「寝たまま」病院まで移動できないか?

その一つの答えが「福祉タクシー」です。
お年寄りがデイサービスに通うときに使うような車両ですが、頼めば要介護認定を受けていない人でも利用できる場合があるのです。

今回、実際に利用してみたので、使い勝手などをお伝えします。

「寝たまま移動」の願いを叶える交通手段は?

去る年末年始、ツマーが頭痛と吐き気を訴え始めてから2日目のこと。
熱はないので今一つ緊急性に欠ける気はするのですが、持病との関連が捨てきれないため、都心のかかりつけ医を受診したほうがいいのではないかという話になりました。

しかし吐き気があり、上体を起こしていると辛いので、通常のタクシーでは移動できなさそうです。
夫婦2人なら妻が後部座席に横になればいいのですが、冬休み中のため幼児1名がオマケについてきます。
助手席に親子2名で座るというのは許されないでしょうから、後部座席には最低でも2名が乗ることになります。

ジャンボタクシーは予約必須?

こんな状況で、オットーがまず思い付いたのは「ジャンボタクシー」です。
通常のタクシーは4名まで乗車可能ですが、3列シートで7名まで乗れる、ワンボックスタイプのタクシーがあるのです。

営業区域内のタクシー会社に手当たり次第に電話してみましたが、状況は芳しくありません。
年末年始ということもあってか、「今日は予約でいっぱいです」との回答が続きます。
絶対数が少ないだけに、予約なしでは実質的に利用できないのでしょう。

最近では「JPN TAXI」「NV200」など後部が広そうなタクシーがじわじわ増えていますが、私たちの知る限り、乗車定員は通常のタクシーと変わらず、運転手1名+乗客4名です。

民間救急という選択肢もあるが…

次に頭に浮かんだのは「民間救急」です。
要するに「お金を払うから救急車相当の車に乗せてくれ」というわけですね。
病院にパンフレットが置いてあるので知っていました。

ただ、台数が少ない上に非常に高額というイメージがあり、そこで思考停止してしまいました。
実際にどうなのかは後述します。

最後の切り札、福祉タクシー

よくよく困ったそのとき、ふと目についたのが「福祉タクシー」です。

町ではしばしば見かけますが、通常のタクシーを持たない専門会社が多く、私たちとは無縁の存在と思っていました。
しかし隣町のタクシー会社は、通常のタクシーとともに福祉タクシーも運行しているということを知りました。
何となく親近感があり、ダメもとで電話してみることにしました。

なお、似たような言葉で「介護タクシー」というものがあります。
この言葉の定義は一定していません。福祉タクシーと同じ意味で使われることもあるようですが、「介護保険が適用になるタクシー」という意味で使われることもあるようです。

福祉タクシーはいきなり呼べる? 誰でも呼べる? 料金は?

空きがあれば「今すぐ」でもOK

気分が悪くて寝たままでないと移動できない――事情を告げると、電話に出た女性は明らかに困惑していましたが、「今からすぐということですよね?」「玄関に段差はありますか?」など前向きな対応。
ストレッチャー(台車つきベッドみたいなもの)までは自力で移動するということにして、スタッフは運転手1名のみ、40分~1時間でお迎えに上がりますとのこと。

来てくれるんだ!

誰でも利用できる!

実は、電話をする前は門前払いされるのではないかと心配していました。
要介護認定を受けているとか、身体障害があるとか、そういう利用条件があるのではと思ったのです。

しかし実際には、単に「具合が悪くて寝たまま移動したい」という理由でOKで、誰でも利用できることが分かりました。
利用条件があるのは狭義の「介護タクシー」のほうですね。

営業区域は都道府県単位

細かいことをいうと、この会社は隣町にあり、通常のタクシーでは営業区域外になります。

しかし後で調べてみると、福祉タクシーの営業区域は原則として都道府県単位なのだそうです。
つまり東京都に営業所のあるタクシーは東京都全域で営業可能ということです。

料金は意外に安い?

緊急なので料金は二の次なのですが、そうはいってもタクシー代を用意する必要はあります(この会社はカード不可だそうです)。

料金体系は会社や地域により異なるようですが、この会社の場合、「1時間あたり5920円、以後30分ごとに2960円」という完全な時間制。これと別にストレッチャーの利用料金3000円がかかります。
電話での話によると、1時間のカウントは「営業所を出たところから、目的地に着くまで」だそうですが、意外に安いな、という印象でした。
念のためコンビニで3万円を下ろしてタクシーを待ち受けます。

なお、後述しますが、料金設定は会社によりまちまちです
実際に利用する会社の料金を必ず確認してください。

ついに「寝たまま移動」開始! その結末は――

救急車並み、とはいきません

45分くらい待ったでしょうか。大型のワゴンが家の前にやってきました。
電動リフトでストレッチャーが降りてきます。

ストレッチャーまでは自力で移動ということにしたので、自宅前の路上で靴を脱いでベッドに横になるという、人通りの多い道なら羞恥心で嫌になりそうな状況を経験しました。

その後もスタッフが1人なのでいろいろ時間を食い、少々じれったいなと思いましたが、救急車と比べてはいけませんね。

死にそうな顔のツマーの次に、元気な2名も乗車。
車の後ろ半分がストレッチャーの搭載スペースですが、前半分だけでも5人は乗れそうでした。

「寝たまま移動」は快適か?

ようやく準備が完了し、いざ出発。ムスコーは珍しいワゴン車での移動に興味津々といった感じでした。

が、肝心のツマーは「気持ち悪い!!」と絶叫。横になっているので、車の上下動が頭部に直接響くのです。
家から持ってきたアイスノンを当てると少しは緩和されたようですが、焼け石に水。
「寝たままなら移動できる」というのは幻想にすぎなかったという、何とも残念なオチです。

ツマー
ツマー

ほんと気持ち悪くて、死ぬかと思った! 救急車より車の質が悪いんじゃない?

オットー
オットー

それはあるかも。サスペンションとか違うのかもね

高速を経由して大急ぎで行ったものの、高架の道路には無慈悲な継ぎ目が連続し、なぜ日本の道路はこんなにも凸凹しているのだ!と憤慨しながら一般道へ。
自宅から40分ほどでようやく病院に到着しました。

これ以上頭を揺られたくないと、ツマーは自力で下車しました。

料金精算がじれったい

救急車ならストレッチャーで病院内に運び込まれて終わりなのですが、福祉タクシーの場合、当たり前ですが料金の支払いという作業が残っています。
ツマーは自力で病院内へ歩いていき、オットーが精算に対応します。

タクシーメーターは搭載されていないので領収書は手書きで、時間がかかります。
ETC車載機はあるもののカードが未挿入のため、割高な高速料金の領収書もついてきました。

普通のタクシーより安い!? 驚きのプライス

料金は事前に聞いていたとおりでした。
高速を使った甲斐あって所要時間は1時間で収まり、運賃5920円にストレッチャー3000円で計8920円です。
この値段でいいの?と思いつつ支払いました。

幸か不幸かタクシーに乗り慣れているので分かるのですが、この運賃は破格です。
今回の乗車距離は約26kmで、かりに信号待ちが全くなかったとしても、一般のタクシーなら8500円ほどかかるところです。迎車代まで考えれば、ストレッチャーを利用したのに通常のタクシーとほぼ同額だったわけです。
ストレッチャーを使わず車椅子だったとしたら5920円で済むわけで、通常のタクシーよりはるかに安く移動できたことになります。

(注意)料金には差があります

ただ、どこへ行くにもこんなに安いわけではありません。
今回は、利用したタクシーの料金体系が完全な時間制であったこと、所要時間が1時間ギリギリに収まったこと、高速を利用して距離を稼いだことなど、幸運が重なってこうなりました。

ちなみに一般のタクシーを時間制で貸し切った場合、移動距離が一定以上になると、時間ではなく距離で課金されるのがふつうです。
つまり「時間か距離、どちらか高いほうで計算する」という利用者に不利なルールです。

福祉タクシーの一般的な料金体系がどうだか知らないのですが、今回利用した会社は利用者に優しい料金体系といえるでしょう。

サービスも価格も一流の「民間救急」

蛇足ながら、後日調べたところ、民間救急はやはり相当高額であることが分かりました。

東京都の例ではありますが、「東京民間救急コールセンター」というのがあり、民間救急や寝台タクシー、サポートCab(一定の訓練を受けた運転士が乗務する一般タクシー)を紹介してくれるとのこと。
寝台タクシーの搬送料金例が載っていて、一見すると許容できない金額ではありません。

しかし、運賃の算定方法が独特で、時間や距離の算出は「事業者の車庫を出発して患者様の搬送が終わり、車庫に帰着するまで」だそうです。つまり片道利用でも往復分の運賃は最低必要ということです。
自宅や病院から遠いところに車庫がある場合、運賃はさらに高くなります。

ダメ押しで、とある民間救急の料金表を見てみました。
今回の行程で民間救急を利用すると、かりに家の隣に車庫があったとしても、運賃は実に24100円。これにケアチャージ(3240円とあるが、長時間だと割増もある?)が必要で、片道3万円コースです。
医療スタッフが2名乗務し適切なケアも行ってくれる、まさに「救急車」であって、福祉タクシーと同列に考えてはいけないのですが、それにしても高額です。

ということで、単に寝たまま移動したいということであれば、別の選択肢をまず検討すべきでしょう。

まとめ

以上、福祉タクシーを初めて利用した体験談でした。
ストレッチャーで利用することはもう二度とないような気がしますが、自家用車がなく、かつ普通のタクシーでは移動できないというとき、選択肢の一つとして知っておいて損はない存在です。

ただ、絶対数が少ない上、大手タクシー会社のような大規模な事業者はないと思われるので、急に利用したくなった際には手当たり次第に空きを確認していくということになるでしょう。

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本記事の「寝たまま移動」は相当変わったタクシーといえますが、そこまで変わってはいなくても、「大きいタクシー」「高級車のタクシー」など、「こんなタクシーがあったらいいのに」というニーズはあるかと思います。

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