東京23区+武蔵野三鷹で8月から始まった、タクシーの「事前確定運賃」実証実験。迎車した時点で目的地までの運賃が決まり、回り道しても渋滞しても運賃は変わらないというものです。詳しくは以下の記事をご覧ください。
今回、初めてこの実験に参加し、事前確定運賃を実際に利用してみましたので、新たな発見なども含めご紹介したいと思います。
結論だけ述べれば、事前確定運賃に実際の道路状況はあまり反映されていないようです。したがって、渋滞時に利用すれば得、そうでなければ損になる可能性が高いといえます。
なお、タクシーの事前確定運賃については、2021年現在、全国でサービスインしています。
詳しくは以下の記事をお読みください。
実は割高? 事前確定運賃
夏と冬は特にタクシー利用の多い我が家。7月に続き8月も「全国タクシー」アプリの利用回数が10回を超え、9月もゴールドユーザー継続です。
しかし、事前確定運賃を初めて利用したのは8月25日と、実験開始からかなり経過してから。この間、3000円を超える乗車も何度かあったのですが、あえて利用しませんでした。
その理由は、私たちの利用する区間では、明らかに事前確定運賃が割高だったからです。
本来、実験の主旨は「損得なし」
「渋滞してもメーターが上がらない」と聞くと、何だかお得感があるように思えますよね。しかし実験の主旨からすると、トータルで乗客は損も得もしないはずなのです。
冒頭にリンクした別記事に詳しく書きましたが、今回の実験では、国土交通省が「通常のメーター運賃と事前確定運賃の差が、実験期間トータルで±2%に収まること」を要件として定めています。
つまり、事前確定運賃だからといって大安売りしたり、逆に高い値段を吹っかけたりしてはダメで、メーター運賃にできるだけ近い金額を乗車前に提示しなさい、ということをタクシー会社に求めています。
この制度で金銭的に得をする、損をするという話ではなく、あくまで「乗る前に運賃が分かるから安心」というところが実験の肝だということです。
事前確定運賃=ちょっと渋滞した場合の運賃
しかし、以下の記事で試しに調べてみたところ、少なくとも実験開始直後の段階では、各社の提示する運賃がバラバラでした。特に長距離では、ひどく割安だったり、逆にひどく割高だったりする事例が多く見られました。
この中で、実験参加車両の約9割を保有する日本交通グループは、近距離から遠距離まで、大体、理論値(信号待ち・渋滞が全くない場合のメーター運賃)の2割増しを提示してくることが分かりました。
この「2割増し」というのは、道がちょっと混んでいる場合のメーター運賃に相当します。高速利用時など首を傾げたくなる結果もありますが、20km以下の一般道経由の経路では、まずまず妥当な価格設定かなと思います。
そして私たちの場合
私たちの場合、8月に入ってから、事前確定運賃を利用できそうな場面(運賃3000円以上)がお盆期間中に2回ほどありました。
が、表示された事前確定運賃を見て、迷わず利用しないことを決めました。割高なのです。
割高になった理由の一つは、事前確定運賃を計算する際のベースになる経路です。私たちが普段利用する最短経路ではなく、遠回りだがスピードの出る主要道経由で計算されているようなのです。当然、運賃は高額になります。
そして、この遠回り経路に対して「渋滞料金」の2割増が加わります。こうなると「月曜日の朝でも絶対ここまで高くならないでしょ」という金額が提示されるわけです。
世間はお盆休み。高速道路が大渋滞する一方、都心の道路は普段より大幅に空いているというのが常です。おそらく理論値の1割増し程度で済むと思われます。「遠回りかつ2割増し」の事前確定運賃を利用するメリットはありません。
ついに試用! 事前確定運賃は高いか安いか
そんな中、8月下旬になって「これは!」という用事ができました。
運賃3000円ちょっとの場所へ、平日の朝に出かける用事ができたのです。しかも、最短経路には踏切あり、渋滞ポイントありで、通常のメーター運賃だとイライラすること必至です。
これはもう、実証実験に参加するしかないでしょう。
実験参加4社のうち、実際に配車されそうなのは日本交通だけだったので、今回は「全国タクシー」アプリのみを使用しました。
計算根拠は表示されたルートと無関係!
早速、事前確定運賃を調べてみます。3870円(迎車料金込み)と出ました。表示されたルートはおそらく最短経路(ただし渋滞に突っ込むこと必至)です。
迎車料金410円を除くと、実質運賃は3870-410=3460円となります。
次に、右上の「料金検索」ボタンを押してみます。こちらは(事前確定運賃でない)通常利用時の運賃の目安を表示するものですが、「8.3km 約3450円」と出ました(迎車料金含まず)。事前確定運賃とほぼ同じですね。
8.3kmに対する運賃の理論値は2890円なので、事前確定運賃は約20%増し、つまり「やや渋滞あり」の運賃ということになります。セオリー通りです。
これなら利用価値がありそうだな、と思って一旦アプリを閉じ、しばらくしてからもう一度見てみたところ、経路が劇的に変わっていました。
おそらく走行時間が最小になる経路を選んだのでしょうが、距離は10.0kmに延びました。「料金検索」画面に表示される料金も「4170円」となりました(10kmの理論値の約2割増し)。
ところが、事前確定運賃は3870円のままなのです!
もし表示されたルートで運行すれば、走行距離10kmなので理論値3450円、これに迎車料金410円を加えると3860円となります。つまり事前確定運賃は理論値と限りなくイコールとなります。が、東京都内の一般道を10km走行して、実際の運賃が理論値と一致することは、まずあり得ません。
このことから、事前確定運賃の計算は必ずしもアプリ画面に表示された経路を基にしているわけではないことが分かります。
これは、ある意味で合理的だと思います。
渋滞でノロノロ運転を強いられるのは客、ドライバーの双方にとって損失です。しかし従来のメーター運賃では、「遠回りだが早く着く」というルートを選択すると、遠回りの分だけ運賃が上がってしまい、それを理由に客が渋滞を我慢するということもあります。実際、私たちも、多少の渋滞であれば我慢して最短経路を選びます。
もし、遠回りをしても運賃は変わらないということになれば、客が遠回りのルートを忌避する理由はなくなります。遠回りで早く着けば、それは双方の利益になります。
道路状況は影響しない!?
さらに一歩進めて考えると、日本交通の場合、事前確定運賃は道路状況に無関係なのではないか?と思えてきました。
上記のとおり、表示されるルートは道路状況により変わることがあります。ルートが変われば距離も変わります。が、事前確定運賃は不動でした。
また、多くの場合、事前確定運賃は「妥当そうなルートの理論値の2割増し」で算出されているようだということも分かっています。
これらの経験から、事前確定運賃は平常時の最適ルートを基に算出され、道路状況に関係なく、常に理論値の2割増しで提示されるのではないか?と考えました。
かりに事前確定運賃に現在の道路状況が反映されているとすれば、いつ利用しても理論値の2割増しというのはおかしな話です。早朝や昼下がりなど、1割増しで走れる時間帯もあるからです。
昼間の空いているときは2割増しで乗客から若干多めにもらう一方、朝夕の混雑時には2割増し以上の渋滞が発生するので、2割を超えた分はサービスする。これらを通算すると、全体としては従来のメーター運賃と変わりらない。こういう落としどころを狙っているのではないかと想像します。
この想像が正しいとすれば、事前確定運賃の使い時はズバリ、朝夕などの渋滞時です。開かずの踏切がルート上にある場合などは特に有利になります。
逆に、早朝や昼間など、道路が空いている場合にはメーター運賃のほうが確実に安くなるでしょう。
なお、深夜割増についてはしっかり事前確定運賃に反映されることを確認しています。なので24時間同一運賃というわけではありません。
コメント